なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注54

公開: 2021年5月3日

更新: 2021年5月31日

注54. 電子商取引におけるコンピュータによる意思決定

1990年代まで、米国社会における市場での商取引では、売り手と買い手は、情報伝達の技術を利用して、自分の意思を相手に伝えることは許されていた。しかし、コンピュータには、そのユーザである人間になり代わって、ユーザの考え方に基づいたやり方で、物事を決定する能力がある。

実際にコンピュータは、人間にはとても及ばない速さで、大量の情報を調べ、内容を高速に評価したうえで、人間よりも妥当な意思決定を下すことができる。しかし、米国社会では、コンピュータが出現してからも、意思決定は人間の仕事であり、経営上の意思決定をコンピュータ(のプログラム)だけで行うことは許されていなかった。

例えば、株の売買において、ある銘柄の株が市場で値崩れを起こしていると判断されてから、自分が保有しているその銘柄の株を全て売ることを決定し、市場に売りに出すまで、人間であれば、早くても数十秒の時間がかかる。その銘柄の株が、本当に値崩れを起こしている場合、この数十秒の対応の遅れは、莫大な損失を招く。その数十秒間にも、株価は下がり続けるからである。

仮に、この判断から、株を売りに出すまでの時間を1秒以下の時間に短縮できれば、損失は実質上ゼロに近づけることができる。そのようなことができなかったのが、従来の社会であった。米国社会では、1990年代になって、これをコンピュータに任せることを許すことによって、可能にした。

株の売買などにコンピュータが利用できるようになると、多くの機関投資家は、コンピュータを使って、株の売買注文を出すようになった。このことが、新たな問題を引き起した。それは、株価が乱高下するようになったのである。それは、上昇を感知した場合には、全てのコンピュータがほぼ同時に買い注文を出し、逆の場合には、ほぼ全てのコンピュータが同時に売り注文を出すからである。米国では、そのような事態が発生した場合には、取引を自動的に停止するようにした。日本でも、東京証券取引所の売買では、現在、似たような制度が導入されている。

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